hanauta
【ART】渋谷区立松濤美術館 / 須田悦弘 展
2024年12月10日
楽しみにしていた展覧会、須田悦弘展が渋谷区立松濤美術館で始まりました。
須田さんは朴の木を用いて本物と見紛うほどの草花を彫刻する木彫作品を制作するアーティスト、まずは入り口前にあるショーウインドウにひっそりと生えたように見える雑草(の木彫)とご対面です。通りを歩いている人からすると「あらまぁ、雑草生えてる!」としか思われないところにおかしみを感じますね。
そしてもうひとつ注目していたのは、この美術館は昭和期を代表する建築家のひとり白井晟一設計のこの美術館が舞台であること。作品と空間がどう対峙するのも気になっていました(会場内は一部を除いてほとんど撮影可能)。
ロビーにある円窓の先の箱庭にも金色に輝く雑草(の作品)。受け付けでいただいた作品リストを見てここに作品があるのは分かったのですが、「どの雑草が作品かしら…?」と居合わせた他のお客様と一緒に探し「これはただの雑草…」「あった!」と連帯感が生まれる出来事もありました。
まずは地下1階にある第一会場へ。
入り口手前にこんな注意書きがあるなんて、須田さんの展覧会以外にありませんね。
《今展覧会フライヤー・オモテ面》
《今展覧会フライヤー・ウラ面》
同じく須田さんの展覧会を見たのは(残念なことに昨年閉館してしまった)ヴァンジ彫刻庭園美術館だったなぁと思い返したら、2018年と6年も前のことで、時の経つ早さに驚きます。東京都内での展覧会は25年ぶりなのだそう。
床に置かれた一目で気付く《チューリップ》から、
壁面に注意を払いながら室内を歩きようやく気付く《雑草》など、
まるで宝探しをしているように、会場内に神経を張り巡らせながら見てまわります。
そして上を見上げるとクレマチス《ミケリテ》も!作品リストを見るとヴァンジでの展覧会と同じ2018年作の作家蔵と書かれていたので、展覧会の時に展示されていたものとの再びのご対面となりました。
その他初めてお目にかかる初期作品の《東京インスタレイシヨン》など初期作品から新作までが並び、同じテーマの中でもどんどん突き詰められた作品へと昇華しているるように感じました。
その後は螺旋階段を使って2階へ。ヤコブセンなど建築家の設計した建物にある螺旋階段は見どころのひとつなので、こちらも白井氏が「曲線が美しく造られることにこだわった」という言葉を考えながら上っていきました。
第二会場前のロビー。こちらの調度品も白井氏の選んだ当時のままなのだそう。
そして第二会場は革張りのソファセットを中心に絨毯張りの床とヴェネチアンヴェルヴェット貼りの壁、”サロンミューゼ”と呼ばれているとても素敵な空間!
この壁を見てどこかで見たような…と記憶を辿っていたら以前訪れた静岡の芹沢銈介美術館と同じであることを思い出し、あちらも同じ白井建築だった!とスッキリ。同じ部材を使っても雰囲気がまるで異なることに面白さを感じました。
作品《木蓮》と壁材ブラジリアンローズウッドとの対比!ヴィンテージ家具屋目線で言うと、こんな見事な杢目の材で壁を作るとは何たる贅沢!!
花びらの裏を覗くと、花脈までが緻密に描かれているのに驚きます。
フロアライトの脇にも似た花があると思ったら…
同じモクレン科モクレン属の《コブシ》
隣部屋に移ったところでいきなり《ドクダミ》が生えているから気が抜けません。これが木彫作品とは…。
奥の部屋では単なる木彫作品ではなく、古美術品の欠損部分を木彫で補う「補作」と呼ばれる作品を展示。この《随身坐像》は左手と弓が補作部分なのですが、説明書きを読んだ後でも分からないほどの精密さ。ものをじっくりと観察してその本質を捉えるような目を持っているからこそできることなのでしょうか。
《春日若宮神鹿像 五髷文殊菩薩掛仏》鎌倉時代の2作品を掛け合わせて角・榊・鞍・瑞雲を補作。現代美術作家の杉本博司氏から依頼されて作った初めての補作の作品で、驚くのは一度ダメ出しされて完全に作り直してできたのがこちらなのだそう。
会場の最後を飾っていたのは何とパッケージデザイン!大学卒業後に1年ほど勤めていた日本デザインセンターとはご縁が続き、退職後も”アルバイト”として数々のイラストを手掛けたのだそう。これも一見まったく異なるものと思えど、対象をまっすぐに捉える目と緻密な描写という他の作品と共通するものを感じますね。
会場を後にしてからは改めて建物を見ていきます。松濤は東京屈指の高級住宅街で周囲には大邸宅ばかり、そんな中でぽっかりと空気感まで変わるような美術館があるというのはよほど強い個性があるのだと感じます。
2階から吹き抜けを覗くと真ん中を通るブリッジが、
ブリッジまで移動するとその下には噴水、
そして見上げると楕円形に切り取られた空へ。そんなホワイトキューブとは異なる建築家のこだわりの詰まった建物での展示は挑むような感じなのかと思いきや、建物に寄り添うように軽やかに作品が並んでいるのを見て、その軽妙さというかどこにでも入り込んでくるような感覚が須田作品らしいなぁと改めてその凄さを感じた素敵な展覧会でした。
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